防水層と下地コンクリートの水分

防水層のふくれ(小池先生撮影)
防水層のふくれ(小池先生撮影)
 
 私は、東工大の小池迪夫先生、田中享二先生の門下生であるが、日本のコンクリート界の大家・日本大学故笠井芳夫先生の後継として育てられて、防水界でなく、コンクリート界で生きてきた。東工大時代でさえ、防水層や塗り床のふくれを下地コンクリートの品質から考えることをテーマとしていた。そんなこともあり、日本大学にきてからはコンクリート中の含水状態を把握する技術を幅広く手がけ、今やコンクリート中の含水率測定に関する技術力は日本いや世界の中で一番であると自負している。そんな中、最近、防水層の下地コンクリートの乾燥状態に関して、いわゆる「Kettの水分計で8%」問題を考える機会があり、いろいろ調べてみた。今一度、防水層のふくれ等の不具合と下地コンクリート中の水分の問題を考えてみたい。

 JASS8はその初版を1972年(昭和47年)としているが、1952年(昭和27年)、1962年(昭和37年)に、日本建築学会の機関誌「建築雑誌」でJASS8案が掲載されている。1952年版は、全編にわたり今のものとは全く異なるスタイルであるが、アスファルトプライマーの塗り方として、「下地が十分乾燥した後」という表現があり、1962年版では、今のJASS8と同じ下地に関する記述「十分乾燥していること。」が登場している。そして、第1版1972年版の解説から「一般に乾燥程度の測定装置には確実なものはないが、普通コンクリートの場合Kettの水分計を用いて8%以下の状態であれば一応安全圏内あるといえる。」の記載が登場することになるのだが、いうまでもなくアスファルトや接着剤は、相手がコンクリートに限らず、水があると相手と相反する。これでは施工時から接着強度が保持されないことになる。仮にコンクリート表面の乾燥程度が接着を阻害しないにしてもそれだけではすまないのがふくれ問題である。一度は乾いた防水層直下の微小な空間も、防水層施工後に湿気・水分が寄ってくると、日射による温度上昇により、単純な乾燥空気の膨張圧に比べるとはるかに大きい0.01N/mm20.1気圧)程度の圧力が発生し、防水層を押し上げることになる。

 「十分乾燥していること。」は、防水層施工後、防水層とコンクリートの界面に湿気・水分が寄って来なくなる程度まで、内部の方まで乾燥していることでなければならない。ふくれが成長するメカニズムは複雑で未だ解明できていないが、下地コンクリート中に存在する水分は、ふくれにつながる膨張圧の原動力となっているのは明らかである。

 さて、なぜ「Kettの水分計で8%」であったのかについては、取材し推察も入れた話として、「防水施工時のコンクリートの含水率-防水工事の可否判断としてどうして「含水率8%」が広まったのか-」としてまとめ、「建築技術」2013年4月号 に掲載されているのでご覧頂きたい。なお、Kettの水分計は、旧型も新型も押し当て式高周波水分計といわれるものである。本来、電極を押し当てて誘電率を測定しコンクリートの含水状態を調べるには原理上無理があるのだが、昨年思い立って“Kettの水分計による測定値”を研究してみた。測定値は、深さ10mmまでの含水状態の影響を80%程度、20mmまでの影響を90%強、そして、影響範囲は概ね40mmまでであることがわかった。

 小池・田中研究室を出てから23年が経過し、研究人生の後半に入っている。コンクリート界で培った研究を駆使し、防止層のふくれの対処法でなく、あくまでメカニズムを解明し、小池迪夫先生、田中享二先生の恩に報いたいと思う。

「防水ジャーナル」2013.6月号より